LinuxカーネルのCVE-2026-98432とは?重大な脆弱性とサーバーの管理者がやること

2026年10月、Linuxのカーネルに重大な脆弱性が見つかったと公表されました。AnthropicのAIがこの不具合を使った攻撃を作れたと発表したこともあり、ニュースでも大きな話題です。
本記事では、この脆弱性の概要と、公表から修正までの流れを解説します。もとにしたのは、CVEの公式の記録と各ディストリビューションの発表です。サーバーの管理者が何をすればよいかも、あわせて整理しました。攻撃の詳しい手順は扱いません。
【メモ】
同じ2026年10月には、PHPとNode.jsでも重大な脆弱性が直されました。中身と対応は、PHP2Shellとは?とNode.jsのBrotli脆弱性とは?で解説しています。
CVE-2026-98432とは
CVE-2026-98432は、Linuxのカーネルが、TCPの接続を受け付ける処理の中でIPv4のオプションを扱う部分の不具合です。外から細工した通信を受け取ると、カーネルのメモリの中身が相手に漏れたり、メモリが壊されたりするおそれがあります。要点を表にまとめました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公表日 | 2026年10月15日(UTC) |
| 影響を受けるカーネル | Linux 4.4以降 |
| 深刻度 | カーネルの採番機関の評価は、CVSS v3.1で10点満点中9.8 |
| 攻撃の条件 | ネットワーク越しに届き、ログインも利用者の操作もいらない |
| 修正済みの版 | 5.10.272、5.15.223、6.1.190、6.6.159、6.12.113、6.18.56、7.2.10、7.3 |
| 悪用の報告 | 確認日の時点で、実際に悪用されたという公式の報告は見当たらない |
PHP2Shellのような呼び名は、確認日の時点で、この脆弱性には付いていません。カーネルの開発者や配布元の発表も、CVE番号だけで呼んでいます。本記事でも、呼び名はCVE-2026-98432のままにしました。
【メモ】
不具合の影響が重いのは、Linuxの中心にあたるカーネルで起きるためです。カーネルの不具合を使われると、サーバーの上のどのソフトよりも強い権限で、攻撃者の用意したプログラムが動くおそれがあります。
AIが攻撃を作れたという発表
この不具合を見つけて、Linuxのカーネルの開発者に報告したのは、Claudeを開発するAnthropicです。カーネルの修正の記録にも、Anthropicの研究者が報告者として載っています。
2026年10月27日、Anthropicは、公開していない研究用のAIでこの不具合を見つけ、遠隔コード実行まで試せたと発表しました。遠隔コード実行とは、インターネットの向こうにいる攻撃者が、他人のサーバーの上で自分の用意したプログラムを動かせてしまうことです。
【メモ】
遠隔コード実行がなぜ特に重く扱われるのかは、遠隔コード実行(RCE)とは?で解説しています。
発表で攻撃の対象になっていたのは、Multipath TCP(MPTCP)で接続を待ち受けているサーバーです。MPTCPを使っていないサーバーで同じことができるかは、発表には書かれていません。攻撃のコードも、公開しない方針です。
ただし、不具合はTCPの処理そのものにあり、配布元もMPTCPに限らず修正版を出しています。また、カーネルの修正は、Anthropicの発表より前の2026年10月5日に取り込まれていました。AIが攻撃を作れたという話題と、不具合そのものの重さは、分けて考えるとよいでしょう。
【メモ】
Go 1.24以降で作ったサーバーは、Linuxでは初期設定でMPTCPを使う作りです。自分では設定した覚えがなくても、MPTCPで待ち受けている場合があります。
公表から修正までの流れ
Linuxのカーネルの修正は、開発者が直したあと、各ディストリビューションの配布元が自分のカーネルへ取り込んで配る流れです。そのため、修正版が届く日は配布元ごとに違います。
修正から公表までの出来事
公式の記録と配布元の発表から、主な出来事を日付の順に並べました。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年9月25日 | CVE番号が予約される |
| 2026年10月1日 | カーネルの開発者が、Anthropicから報告を受けた不具合の修正を提案する |
| 2026年10月5日 | 修正が、カーネルのネットワークの開発の流れに取り込まれる |
| 2026年10月15日 | CVE-2026-98432が公表される(UTC) |
| 2026年10月16日 | Oracle Linuxが、修正したカーネルを公開する |
| 2026年10月24日〜30日 | Amazon Linuxが、修正したカーネルを順に公開する |
| 2026年10月27日 | Anthropicが、AIで不具合を見つけ、攻撃まで作れたと発表する |
| 2026年10月30日 | Red Hatが、告知RHSB-2026-016で一時的な対策を示す |
配布元ごとの修正の状況
修正版が出る日だけでなく、深刻度の評価も、配布元ごとに違います。2026年10月31日に各配布元のページを読んだ時点の状況を表にまとめました。
| 配布元 | 評価 | 状況 |
|---|---|---|
| Debian | 記載なし | bookworm(6.1.190-1)、trixie(6.12.113-1)で修正済み |
| Ubuntu | 優先度High、CVSS 9.8 | 22.04、24.04、26.04、26.10は修正版を準備中 |
| Red Hat | Critical、CVSS 9.8 | RHEL 8、9、10は修正版を準備中。一時的な対策を公開 |
| Amazon Linux | Important、CVSS 8.1 | Amazon Linux 2、Amazon Linux 2023で修正版を公開済み |
| Oracle Linux | Important、CVSS 8.1 | UEKのカーネルで修正版を公開済み |
| SUSE | important、CVSS 8.1 | SLES 16.0などで修正版を公開済み。15 SP7は準備中 |
評価が8.1の配布元は、攻撃を成功させる難しさを「高」と見ています。また、Ubuntuの20.04より前の版は、表に挙げた版と違い「Vulnerable」と表示されていました。
配布元の状況は、数日のうちに変わります。ニュースや解説記事の数字は、書かれた日の値です。最新の状況は、末尾に挙げた配布元のページで確かめてください。
修正版の公開前後で、危険はどう変わったか
修正版が公開されると、修正前と修正後のプログラムを見比べられるようになります。どこを直したかが分かれば、不具合の場所も分かるため、攻撃を試みる人が増えるおそれがあるのです。最も危ないのは、修正版が公開されてから、自分のサーバーに修正版を入れるまでの間になります。
Linuxのカーネルは、開発の記録をすべて誰でも読める形で公開するソフトです。今回も、修正はCVEの公表より前に取り込まれていました。配布元の修正版を待つ間も、カーネルの修正そのものは見えていたことになります。
一方、修正版を入れて再起動したサーバーは、この不具合を使った攻撃を受けても影響を受けません。修正版が出たらすぐに入れられるよう、日ごろからサポート中の版を使い、更新の手順を決めておくことが備えになります。
サーバーの管理者がやること
やることは、自分のサーバーが対象かを確かめ、修正版を入れて再起動することです。修正版がまだ出ていなければ、配布元が示す一時的な対策を検討します。
Linuxが動いている場所ごとの対応
誰がサーバーのOSを更新しているかで、やることが変わります。
| 使い方 | やること |
|---|---|
| レンタルサーバー、Webサービス | 事業者がOSを更新するため、自分で何かをする必要はない。気になる場合は事業者のお知らせを見る |
| VPS、クラウドのサーバー | OSの更新は自分の役割。この後の手順で確かめる |
| コンテナで動かすアプリ | コンテナはホストのカーネルを使う。ホストのサーバーを管理している人が更新する |
配布元と版を確かめる
まず、サーバーで動いているディストリビューションと、その版を確かめます。
cat /etc/os-release
続けて、動いているカーネルの版を確かめます。
uname -r
末尾の「参考にした一次情報」から、使っている配布元のCVE-2026-98432のページを開きます。自分の版に修正版が出ているか、出ていればどのパッケージの版で直ったのかを確かめてください。
修正版を入れて再起動する
修正版が出ていれば、配布元の手順に従ってカーネルを更新しましょう。DebianやUbuntuでは次のコマンドで、パッケージをまとめて更新できます。
sudo apt update && sudo apt upgrade
Red Hat Enterprise LinuxやAmazon Linux 2023では、次のコマンドを使います。
sudo dnf upgrade
カーネルの修正は、更新したあとに再起動しないと反映されません。再起動したら、もう一度 uname -r で版を確かめ、配布元のページにある修正済みの版になっているかを見てください。
修正版がまだ出ていない場合
修正版が出るまでの間、配布元が一時的な対策を示している場合があります。Red Hatは告知RHSB-2026-016で、IPv4のオプションを含む外からのTCPのパケットを、nftablesで捨てる方法を示しました。
通常のTCPの通信ではIPv4のオプションを使わないため、ふつうの通信には影響しない見込みです。ただしRed Hatは、この方法で防ぎきれない場合があり、修正版の代わりにはならないとも書いています。使う場合は、配布元の告知の手順と注意を読んでからにしてください。修正版が出たら、すぐに入れて再起動しましょう。
参考にした一次情報
- CVE Program「CVE-2026-98432」
- Linux kernel「ipv4: free inet_opt and ireq_opt after an RCU grace period」(修正の記録)
- Anthropic「Discovering and exploiting vulnerabilities in critical, real-world software with Claude」
- Debian Security Tracker「CVE-2026-98432」
- Ubuntu「CVE-2026-98432」
- Red Hat「CVE-2026-98432」
- Red Hat「RHSB-2026-016」
- Amazon Linux Security Center「CVE-2026-98432」
- Oracle Linux「CVE-2026-98432」
- SUSE「CVE-2026-98432」
- Go「Go 1.24 Release Notes」
- CISA「Known Exploited Vulnerabilities Catalog」